game over


「おい、まだなのか。」
「はい…」
そう答えるしかなかった。
「早く殺せ。そうしない陛下にはもう時間が…。」
焦る本当の主君。辛そうに言うその表情に、自分の本心など言える筈もなく。
「…はい。しかし、なかなか隙を見せないもので…。」
「言い訳はいいからな。行け。」
「分かりました。」
そう言って、店を出る。ここはカトルの城下のカフェ店だ。
王の『右目』である俺が陛下の傍を離れられる時間なんか殆どないが、そういう時間を俺が持ったと知ればすぐに呼び出される。
陛下ではない、俺の本当の主君の使い。
「…隙、か…。」
本当はたくさんある。俺を信頼してくれてるのがよく分かる…。
「どうして陛下なんだ…。」
殺さなければいけない人が。どうして右目を犠牲にしてまで命を救ってくれて、新しい名をくれて、信じてくれた人なんだろう。
俺の本当の主君は、俺の兄。体が弱くて、でも国のことを…自分の民のことを一番に考える、優しい大好きな兄さんだ。
そんな兄さんは、カトルを奪おうとしている。
兄さんは大勢の人を苦しめ殺すことが嫌いで…つまり戦争が嫌いで、他国の領地が欲しくても奪うことができない。
でも、この国はたった一人…王を殺しさえすれば、白銀公を奪いさえすれば領地を奪える。だからこの国に目をつけた。
「これ以上は無理だ…。」
これ以上陛下の傍にいたら、殺せなくなる。兄さんの命は残りわずかで、
優しすぎる兄さんはここを手に入れないことには安心して死ぬこともできないだろう。

―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*

『コンコン』
俺はいつものように執務室のドアをノックし、中に入った。
「おう。どうした?今日は休みだろ?」
「…陛下。」
俺はそう呟き、剣の柄を握る。
「…。お前…。」
陛下は驚いた顔になり、一瞬動きが止まった。しかしすぐに苦々しさと辛さが混じった顔になり、銃を構えた。
「何故だ?」
陛下が俺に問う。…今日は補佐官も出払っていて、白銀公は王城閣下と話があるとかで留守をしていた。
2人は仲が良いらしく、しょっちゅう2人で城内をうろうろしているらしい。
「…俺の兄さんの為です。自分の国の為に、ここを手に入れようと…もう残りわずかな体と戦いながら、必死になっています。
戦争が嫌いで…。」
「戦争をせずに手に入れられるのはここくらいだもんなぁ?」
「…はい。この国に来たのも、そのためです。」
「毛皮に驚いたのは演技だったのか?」
「それは全然知りませんでした。ここの国に行けと言われ着いてから、ちゃんとした命令を受けたもので。。」
「…まぁいい。裏切り者は殺す。裏切るも何もないか、初めから敵だったんだからな。」
陛下はそう言って、銃の安全装置を外す。
『ガウン』
陛下の銃から出た弾を避けようとしたが、俺は動かなかった。弾は全然違う方に飛んで行った。
「…陛下?」
「…。」
陛下はただ黙っている…手を震わせて。

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そうしてようやく、俺は悟った。
「殺さない…殺せないんですか。」
「…俺にはやるべき事がある。」
そう言って手を動かそうとするのに、銃口は俺に向かわない。
「でも、ここでゲームオーバーだな。どうした、早く刺せよ。」
「…分かりました。」
俺は陛下に近ずく。そうして俺は、
「おい、何してる!?」
陛下の手を上から握り、銃口を自分の喉に向けた。陛下はいまだに動けずに、俺にされるがままになっている。
「俺も陛下を殺せません。陛下を殺そうとする兄さんに逆らうことも。
こうするのが一番いいんです…自分の剣で死んだなんて兄さんが聞いたら気が狂いますから。」
俺がそう言って笑うと、
「裏切りましたね…。」
そう背後から声がした。振り向くと、一人の男が俺に剣を突き刺すのが見えた。
「う…ぐっ」
俺は呻いて倒れた。
「『右目』!!…てめえら…」
陛下が叫ぶ。俺の目に最後に映ったのは、5人くらいの自分の国の服を身にまとった刺客と思われる男たちと、
それを打つ陛下の姿だった。

―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*

「…目が覚めたか?」
俺が閉じていた目を開けると、そんな声が聞こえてきた。開けた瞬間に見えたのは陛下だった。
「…陛下!?何しているんですか、俺は陛下を…!!」
『スパーン!!』
言いかけた途中でスリッパで叩かれた。
「馬鹿、他の奴らに聞かれたらどうする。」
陛下が周りを見渡す。ドアの近くに兵が立っていた。小声で陛下に問いかける。
「…言ってないんですか?」
陛下も小声で話す。
「…お前の兄、死んでたんだってよ。あのあと殺した刺客が死ぬ前に全部吐いた。
俺を殺さずに、こいつだけ奪えと言ったのを、その国の奴らが俺を殺せと付け加えたんだと。」
「そう…ですか…。」
「おい、これからどうするんだ。」
急に陛下が話を変えた。
「…俺がしたことは、許されることではありません。ここで罪を償います。」
「そうか。だったら俺がお前の罪の重さを決める。俺が殺されそうになったんだから、文句はねえな?」
「はい。」
「俺にないものを補え。俺の護衛と、『右目』として。」
「…それで俺が納得するとでも?」
「いいや。お前が罪悪感を感じて俺に使えることが、お前への懲罰だ。逃げんじゃねえぞ」
「しかし、それでは…。」
「なんだ、罪も償わずに逃げるつもりか?もう裏切る理由もないんだったら主人の言うことは聞けよ。」
「でもやはり…!」
「俺に心から仕えること…今度こそやれよ、『右目』?」
そう言って陛下は笑った。
「…。御意。」
俺は最初の頃言った言葉と同じことを言った。あの時とは違う、心からの言葉で。


END



蒼いアゲハ蝶様に、キリ番リクエスト「敵対パラレル小説」を書いていただきました。
「右目」が健気で泣けました・・・!
無茶なお願いを聞いてくださってありがとうございます。家宝にします!


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