追い駆けっこ 



ヒュウガが歩く歩調と全く同じ歩調でコナツは進むため、2人の距離は先程と同じ位の間隔を開けたまま変わることが無い。

今までの流れからすると、彼が人事部へ行って言うことは一つしかなかった。

からかい過ぎたことをヒュウガは謝ろうとするのだが、コナツは全く聞き入れようとはしない。



先程までと同じ距離だというのに、追う者と追われる者が完全に入れ替わっている。

段々と人事部が近付いてきて、さすがにヒュウガも焦ってきた。



なぜなら。

ヒュウガはコナツ以外のベグライターなど、考えることすら出来なかったからだ。



と、そんなことを自分が無意識に思っていたことに気付いたヒュウガは、足こそ止めないものの驚きのあまり微かに目を見開いた。



正直ヒュウガはベクライターなど誰でもいいと思っていた。

それ所か、初めてコナツに会った時は苦手意識さえ感じていたはずなのに。

その彼への思いの変わり様に、ヒュウガは微かに笑みを浮かべた。

しかしそれは決して自らへの嘲りなどでなく、どこか困ったような諦めに近い笑みだった。



「ホント、敵わないなぁ」



ポツリとそう呟いたヒュウガの声は、静かな廊下であるにもかかわらずすぐに消えてしまうほど小さなものだった。 



***



歩調はそのまま。だけれども――今回の場合コンパスが違った。



「え……わっ!?」



突然肩を掴まれてコナツは振り返ろうとした。

しかし後ろから首横からするりと腕を回され、振り返ろうにも身動きが取れなくなった。



頬に触れる硬い布の感触は、彼が着ている軍服のものと全く同じ感触。

そして、こんなことを実行する人物は一人しか思い当たらない。

コナツは瞬時に自分の状況を把握した。



腕の主はそろそろ上司でなくなりそうなヒュウガ。

状態としては後ろから抱きしめられている。





(………抱きしめ…?)





冷静で的確な判断を下したコナツの思考は、ある一点で突然停止した。



「な……ちょっ…っ!?」



動揺のあまりたっぷり5秒程置いてから、コナツはヒュウガの腕の中で暴れた。

だが勿論2人の体格の差というものははっきりとしている。

コナツが抵抗したところでびくともしなかったのは言うまでも無い。



「離して下さい…っ」

「ヤダ」



必死に抵抗を続けるコナツの顔が赤いのは、果たして怒りの為かそれとも。

そんなコナツを戒めているヒュウガの腕が、突然軽く苦しいと思えるほど強くなった。



「………ごめんね」



突然耳元で告げられた謝罪の言葉。

コナツが何かを言う前に、ヒュウガは腕の力を緩めた。



しかしコナツはもう暴れることなく、静かにヒュウガの真正面へと向き直る。

落ち着いた、真っ直ぐな視線が少し低い位置からヒュウガへと注がれる。



「なんで、この書類を片付けようと思わないんですか?」



コナツがヒュウガに渡した書類は、ベグライターの権限では代理で判を押せない書類ばかりだった。

そういったもの以外は全てコナツがほぼ片付けてしまったため、実の所残るはこれだけなのである。

それは、最低限の量だけをヒュウガに回そうという、コナツの気遣いだった。

ヒュウガもそれを理解しているらしく、そういう書類の時は文句を言いながらもちゃんと片付けていた。


――それ以外の時はよくこうやって逃げていたが。


だが今日は内容をまったく知らないわけでもなく、軽く目を通したというのに逃走した。

誰でもできる仕事に対しやりたくないと言うならばまだどうにかなる。

その一方、ヒュウガ以外に捌ける者がいない状況でそれを許すわけにはいかないのだ。



コナツが怒っている理由はそれだった。



「……たら、………から」

「は?」



珍しく弱気なヒュウガの声は殆んど聞こえず、コナツは首をかしげた。



「もし片付けたら、俺だけ明日休暇になるから」

「…ヒュウガ少佐」



おそらくヒュウガは昨日のアヤナミとコナツの会話のことを言っているのだろう。

確かにアヤナミはコナツに対し、ヒュウガに明後日が休暇であることを告げろと言っていた。



だがそれを聞いたコナツは、思いっきり目の前にあるヒュウガの胸板へ頭突きをかました。



「痛っ…!」

「…その時、ちゃんと全部聞いてました?」

「え。まあ…あんまり」



曖昧に答えるヒュウガに、コナツは一つ溜め息をついた。



「……ヒュウガ少佐。質問してもいいですか?」

「うん…?」

「伴奏だけのピアノってどう思いますか?」

「面白味が無いね」



あっさりとしたヒュウガの回答に、コナツは一つ頷く。

そして更に掘り下げた質問をしてゆく。



「じゃ、『作品』としては?」

「成り立たない。……けど、それがどうかしたの?」



さすがに理解できないヒュウガは、首を傾げて最終的な解答を求めた。

もちろんコナツも音楽や芸術的な話をしたかったわけではない。

更に今は焦らすような状況でもないので、解答はすぐに返ってきた。



「ベグライターは『伴奏者』という意味もあるんです」

「……」



ヒュウガはその答えに対して何も言わず、じっと自分のベグライターを見つめた。

視線だけで解答の続きを促すと、コナツもそれをすぐに読み取った。



「『主旋律』であるヒュウガ少佐がいなければ、手助けをすることは出来てもそれ以上は出来ないんです」



とそう言いつつ手元の書類を見ていたコナツは、ぐっと顔をあげた。



「俺は貴方が居なければ書類を捌くことくらいしか出来ない。





だから…全ての書類さえ捌けば、二人で休暇を取って良いという話でした」





「……二人で?アヤたんがそう言ったの…?」

「はい。アヤナミ様のご配慮のようです」



あのアヤナミがそれを認めたのかと驚いたような顔で問うヒュウガに、コナツは苦笑混じりな笑顔で頷いた。

そのコナツの顔には、もう既に怒りなど欠片ほども残ってはいなかった。 



***



その後のヒュウガの行動は速かった。



書類を持っていない方のコナツの腕を掴むと、早歩きで執務室へと向かう。

歩きながらの会話は勿論明日のことについてである。



「ね、コナツ。何処行きたい?」

「何処にでも。……あ。でも出来ればゆっくりできる所が良いですね」

「だね」



だが、何処に行こうとあまり変わらないことは目に見えていた。

結局の所、2人が重要なのは場所ではなく、一緒にいる人物なのだから。 






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虚空華様より1000HIT残念賞として頂いてしまいました//(ユキは1100を踏んだ
コナツ可愛い!大好きvv(ヒュウガさんは?

慧さん、本当にどうもありがとうございました!!




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